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(勉強会メモ)生態学的研究はエビデンスレベルが低い 〜前橋スタディを例に〜
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2022.09.14 Wednesday 01:44
勉強会メモのつづき。
メイン講演のテーマで、
生態学的研究はエビデンスレベルが低い
って言われて、なんのこっちゃ、と。
一言でいうと、
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要因と結果の関連を検討する際、個々の観察単位を「地理的・時間的な集団」とする研究(個人ではない!)
「地域相関研究」ともいう
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だそうで。
まだ、「ナニイッテンノ」ってレベル。
ぐぐってみた。
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生態学的研究は分析対象を個人でなく、地域または集団単位(国、県、市町村)とし、異なる地域や国の間での要因と疾病の関連を検討する方法。
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なるほど。さすがグーグル先生。わかりやすく翻訳してくれた。
さて、「前橋スタディ」という、35年ほど前(1987年)に報告された研究がある。
研究の動機や経緯などを端折ってざっくり説明すると、インフルエンザワクチンの集団接種をやめた前橋市、安中市と、集団接種をした周辺地域(高崎市・桐生市・伊勢崎市)におけるインフルエンザの流行状況を1980年から6年間にわたって比較したものだ。このデータから、ワクチンを打っても打たなくても罹患率に変わりはない! という結論を出している。
で、前橋市とそれ以外の地域では、有意差を求めるまでもなく「確かに変わらんよね」という罹患率を出していた(※1)。前回の記事でいうところの、ワクチン非接種群が前橋市で、ワクチン接種群がその他の都市、と置き換えられる。有効率はほぼゼロだ。
この結果が公表されると、ワクチンを打っても打たなくても変わりないじゃないか、むしろ副反応の可能性があるからやめた方がいい、という世論が巻き起こり、日本は定期接種をやめ、数年でインフルエンザワクチンの出荷数がほとんどなくなった。前橋市医師会のホームページにも、ご丁寧に医師記載の記事が載っている(※2)。
ただ、今回の講演では、生態学的研究(ecological study)での結果の解釈にあたり注意すべき点として、
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「集団レベル」で観察された要因と疾病との関連が「個人レベル」で当てはまるかどうかはわからない
(にもかかわらず、研究結果がわかりやすいため、読み手が個人レベルに類推して結果を受け入れてしまう。=ecological fallacy(生態学的錯誤)が起こる)
また、
生態学的研究は仮説設定としては有効だが、確定的なことは言えない。確定的なことを言うためにはもっとエビデンスレベルの高い研究が必要である。
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と述べている。
いまいちイメージがつかめないかもしれない。極端な架空の例を出してみよう。「国別で見た男性一人あたりの平均年収と自殺者数」→「年収が高いほうが自殺する!」
「都道府県別に見たお茶の消費量と、がん罹患率」→「お茶を飲むほうががんに罹りにくい!」
「都道府県別に見たお茶の消費量と、花粉症罹患率」→「お茶を飲むほうが花粉症に罹りやすい!」
条件以外にもバイアスは見えるだろう。「お茶を飲むほうががんに罹りにくい!」を言うためには、地域の平均、つまり「都道府県一人あたりのお茶の消費量」を軸に取るのではなく、個人それぞれ、たとえば北海道のお茶を飲む人と飲まない人、静岡県のお茶を飲む人と飲まない人、など分けて追跡する必要がある。
同様に、自殺割合と収入を関連付けたいなら、A国、B国、C国……、それぞれの高収入者と低収入者で死因を比較しなければならない。
話を前橋スタディに戻そう。
興味が出たのでデータが転がってないか検索してみたら、3クリック辿って巡り会えた。
データも確認できたが、これ、下の3市を見ると、明らかに接種群のほうが罹患率少ないよね。ワクチン効いてるじゃん。
細かい解説は他ページに任せるとして、へっぽこ薬剤師の私でも、「なぜその結論になった」と首を傾げるようなデータである。
#まとめ
数字が示されると信じてしまいそうになるが、きちんと頭の中でデータを噛み砕いてみよう。
今回は生態学的研究の話なので、国ごとを比較したデータなんかは要注意だ! とまとめておく。
現在だとコロナ関係が飛び交いそう。不織布マスクが高騰してイソジンガーグルが市場から一瞬でなくなる国民性なのも覚えておくと良いよね。データは都合の良いようにデザインされることもあるし、することもできる。
日頃からデータを見てイメージするような訓練をしておいたほうがいいな、と思える講演だった。
前橋スタディに関しては、反ワクチンが結論の記事もかなり上位に検索が上がってくるので要注意だ。
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※1:1984年度の例をあげると、前橋市の罹患率42.8%に対し、高崎市40.1%、桐生市43.0%、伊勢崎市51.9%であった:この数字についてはカラクリもあるのだが、ここだけ出したら予防接種は意味ないと思ってしまう。
※2:医師会の偉い人なのかもしれないが、明らかに一個人の感想だ。まあ、2000年の記事なのでWebに対する認識も違うのだろうけれど、公式に載せておくのはどうだろう。しかもこれ、「前橋スタディ」で検索すると上位に出てくるんだよね。
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(勉強会メモ)データの読み方 ワクチンの有効率
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2022.09.12 Monday 23:41
勉強会に出てきたので忘れないうちにメモまとめ。
Evernoteとか使ったけど、無料だと制限あったりして、なんだかんだブログに記載しておくのが検索しやすいので、しばらくこちらに残してみる。
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・「ワクチン有効率70%」は、
✕:ワクチンを100人に打ったら70人に効果がある
○:ワクチンを打っていない人の発病率を1とすると、打った人の発病率は0.3
(例をあげて補足解説)
インフルエンザワクチンを打っていない人100人のうち、
インフルエンザにかかった人:30人 かからなかった人:70人
インフルエンザワクチンを打った人100人のうち、
インフルエンザにかかった人:9人 かからなかった人:91人
のとき、9/30=0.3であり、ワクチンを打ったからかからなかった人は0.7=有効率70%
という。
なにもしなければインフルエンザにかかる可能性が30%であったところを9%に抑えた、という意味だ。
テレビで単純に「ワクチンの有効率は〜」というと、70%に効くのかー、とか、50%にしか効かないのかー、など思ってしまいそうだが、そもそもの罹患率が少なければ、この数字はブレる可能性がある。
ワクチンを打っていない1万人のうち発症したのが3人、というレベルだったら、ワクチンを打っている1万人のうち発症したのが1人だったときと2人だったときの有効率はそれぞれ66%と33%になる。だいぶイメージが変わってくるだろう。
もちろん0人だったら有効率は100%になるし、3人を超えたらマイナスになる。
で、20-21シーズンと21-22シーズンのインフルエンザは、まさにこの状態だった。例年なら1日万単位の報告があるのに、1桁ということも珍しくなく、全然インフルしてなかった。
厚生労働省の定点報告(各年51週で比較)では、
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2021/12/20〜26 49人
2020/12/14〜20 70人
2019/12/16〜22 105,221人
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となっている。この数だとワクチンの有効率は正確に出ないんじゃないだろうか。
また、コロナのおかげで、19-20シーズンとそれ以降は手指衛生やらマスクやら清潔の意識が変わったし、鎖国状態だったから海外からの渡航も減っていて、ワクチン以外のバイアスもありそう。
今年は人の動きも戻ってきたし、入国制限も緩めているし、やばいんじゃないか、という見立てもある。
数字はちゃんとその意味を理解してから判断しよう!
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補液溶解後のインスリン安定性
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2022.08.16 Tuesday 00:30
病棟でぼんやり仕事していたら、リーダー看護師に「5%糖液にインスリン入れちゃったんだけど、まだ点滴しないんだよね。7時間後くらいでも大丈夫?」と聞かれた。うっ、と思いながらも、特に気にしたこともなかったし、インタビューフォーム調べても安定性に何も出てこなかったから、「いいんじゃない?」って返事したんだけど、念のため調べてみた。
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中心静脈栄養用輸液に混注されたインスリンの含量変化に関する検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/140/4/140_19-00251/_pdf
末梢静脈栄養輸液中におけるインスリンの安定性に関する検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/27/2/27_739/_pdf/-char/ja
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HPLCを使ってインスリン濃度を経時的に調べている論文が出てきた。
下の論文で、「容器や点滴投与ラインにインスリンが吸着する」と書いてあるが、経過時間ゼロの時点ですでにインスリン残存率が80%となっている(スタートはインスリン混注10分後)。
その他に、
・単位数が少ないと、多いときよりも残存率が下がる
・PPN溶液(ビーフリードとか)や糖加溶液(この報告ではKNMG3)で経時的に濃度が下がる
・メイロンを使ってKNMG3のpHを上げると残存率が下がる
上の論文では、エルネオパ1号と2号で同様のことをやっているんだけど、
・インスリン混注直後に30%程度インスリンが減少する
・1号ではその後濃度変化はなかった
・2号は、「混注後5時間以降の時点において,混注直後よりも有意にインスリン濃度が減少している」
どっちにしろ衝撃だった。エルネオパなんてインスリン入れるし、短くても12時間は流してるから、はじめと最後でインスリンの効きが違ってくるだろう。
これって有名なの?
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混注済の点滴は破棄してもらった。
ブドウ糖、アミノ酸の入っている点滴はインスリンが減衰していく、ということで、今後注意しておこう。
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医療系記事ピックアップ(ミダゾラム口腔用液:商品名ブコラム)
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2022.08.01 Monday 00:22
(日病薬雑誌:2021年12月号より)
■てんかん重積状態
日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」から
「発作がある程度の長さ以上に続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないもの」と定義している。
てんかん発作は通常1〜2分で停止することが多いが、持続時間が長くなると薬剤抵抗性となり後遺障害を残す
痙攣発作では、5分以上持続すれば治療を開始すべき。30分以上持続すると後遺障害の危険性がある
■治療
主としてベンゾジアゼピン系薬剤(BZP)を用いる。
ミダゾラムは、GABAA受容体のBZP結合部位に結合し、GABAA受容体とGABAの親和性を増加させGABAの作用を増強する。
ただ、この効果は痙攣発作の早い段階でないと期待できない。
てんかん重積状態で発作が繰り返されると、細胞膜のGABAA受容体は、内在化、不活性化が起こり減少するため、BZPの効果が弱くなる。一方で、興奮性神経伝達を司るNMDA受容体が細胞膜に表在化し増加する。
つまり、抑制性の受容体が減少し、興奮性の受容体が増加するため、大脳神経細胞は興奮性に強く傾く。
小児痙攣重積状態における予後不良の原因疾患は急性脳症が最多であるが、原因疾患以外では、低年齢と発作の持続時間が挙げられている。このことからも、早期のBZPによる治療介入が望ましい。
■ミダゾラム口腔用液
早期に治療介入するため、ミダゾラムやジアゼパムの静注薬の前に、家庭で使用できる治療薬として、ミダゾラム口腔用液やジアゼパム注腸薬を推奨している(小児神経学会ガイドライン)。
これまでは、ジアゼパム坐剤や抱水クロラール直腸内投与が行われていたが、緊急に発作抑止を図る目的での仕様は推奨しないと提言した。
実際に、ジアゼパムの坐剤と液体注腸とを比較すると、液体は20分以内にCmaxに到達するが、坐剤ではCmaxは液体より低く、Tmaxも遅れることが報告されている。
ミダゾラム口腔用液は、欧州では2011年に承認されていたが、日本では2013年に静注薬の適応が通っただけであった。小児神経学会から要望書を提出し、2017年から治験が始まり、2020年12月に発売となった。
■ブコラム
保険適応:3ヶ月〜18歳未満、てんかん重積状態
投与法:頬粘膜内側に注入。量が多ければ両頬に分けてもよい
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#コメント
開発に絡んだ人の記事だったのかな。文章から推奨を強く感じた。とはいえ現場では望まれていた薬であり、自宅で簡単に対応できる剤形というのは強い◆この製剤が出る前に、小児関連のMLで、ドルミカム(注射用のミダゾラム製剤)を飲ませていた施設があって、使い方が議論されていたんだけど、やっと製剤ができたー◆と、感じていたが、すでに発売から1年半なんだね。そういえば勉強会に出たのは1年以上前だったか◆時間はかかるけど小児製剤も対応されつつあるのかな◆とにかく長い痙攣はまずい。繰り返していくとどんどんまずくなるので躊躇せずに救急車を。
当直中に雑誌の1記事でも読んでまとめていこうか、と書いてみたものの、結構時間がかかる。
今後続けていくかは未定だなー。
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JUGEMテーマ:薬剤師
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花粉症治療薬を自費にするって?
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2019.08.23 Friday 23:00
花粉症治療薬を自費にする案が出されていると。
花粉症治療薬 市販薬と同じ効能なら全額自己負担 健保連が提言
もうね、アホかと。
そんなコメントしか出てこなかった。
思わずあまり動きのないブログを書いてしまうほどに。
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